思いこみ

コーヒーとか紅茶を頼む。最近はめったに見ることができなくなったが、角砂糖が二個、スプーンの上に乗っかっている。角砂糖が落ちないようにスプーンを持ち上げてカップの中に静かに入れる。砂糖壷から入れるときはスプーンに二杯。袋入りの砂糖のときは内容量にかかわらず一袋すべて。八割くらいの人はこのようにしている。残る二割の人は、好きなようにしている。砂糖を全然いれなかったり、一杯だけ、三杯、袋の半分、袋の砂糖をスプーンに受けて一杯分だけ、さまざまである。

ほかの食べ物で、八割から九割の人がしていることを見てみよう。

カレーライス。食べる前にソースをかける。一口でも食べてからなら理解できるんだが。

きつねうどん。まず初めに七味唐がらしをふりかける。辛いのが好みなら甘い油揚げのはいったきつねうどんをなぜに注文するのか。

ざるそば。薬味を入れた小皿に入っている大根おろし、わさび、鶉卵をすべて一挙にそばつゆに溶かしこむ。鶉卵でなく鶏卵をつけている店を経験したこともあるが、本格派を標榜しているところでは大根おろしと山葵だけのようである。

ラーメンには胡椒をふりかける。

そば焼き。ソースを加えて焼いてあるにもかかわらず、ソースをかける。

食べ方にルールがあるわけではない。好きなように、自身がうまいと思うような食べ方をすればいい。ただ、その食い方がすべてだとは考えていただきたくない。

鮨屋で外国の人に食べかたの説明をしている場面に遭遇することがある。醤油に山葵を溶き、そのなかに刺身を漬けて食うのだと得得としてパフォーマンスをしている。醤油皿の中で刺身をひっくり返して両面にたっぷりと醤油をつけていることもある。

私も子供の頃は親がやるとおり真似し,同じように醤油をつけて刺身を食っていた。そのようにして食べるものだと思い込んでいたのである。あるとき、醤油をつけずに食ってみた。うまかった。それからは、たいてい、刺身には醤油をつけなくなった。いまは、刺身に少量の山葵をのせて食べている。うまい、と思う。鮨屋のオヤジからは変わり者とみられているようだ。

脂ののったうまそうな鮪のトロの刺身に山葵を少しのせ、刺身の隅の方にちょびっと醤油をつけている、ある日本酒のテレビCMを見た。そういう食べ方もあるのか、と真似した。醤油がないほうがうまかった。

醤油まみれになった刺身の好きな方は醤油をたっぷりとつけて食べればいい。ちょっぴり醤油をつけたい人はちょっぴりつければいい。テレビCMのようにして食べるのが好きな向きはそのようにすればいい。

百歳を大幅に超えてから婦女暴行で刑務所にはいった人にあやかりたいということで名づけられたウィスキーがある。うまい、と,ひとが言うので、同じように水割りにして飲んでみた。薬のようであった。あるとき、ストレートでやってみた。うまい。値段だけのことはあると思った。

いつもとは違ったやり方をとってみることで、なにかの発見があるかもしれない。それで人生が豊かになれば,それにこしたことはないではないか。

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